3月のライオンネタバレ！柳原棋匠と島田八段の対局の勝敗は！？

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零が人々の期待を受け、宗谷名人との記念対局に臨む一方、

島田八段は初タイトルを獲得すべく、柳原棋匠と死闘を繰り広げていた。

棋匠戦は五番勝負で、これまでの成績は二勝二敗。

今回の対局で勝利した方が、棋匠を名乗ることができる。

初タイトルを獲って故郷に恩を返したい島田だったが、柳原棋匠にも負けられない理由があった。

棋匠戦は通算10期で、永世の称号が与えられる。そして今日この棋匠戦こそが10期目。永世がかかった運命の対局なのである。

努力の島田八段と、

最年長Ａ級の柳原棋匠。

大盤解説を任された零と二階堂は、その激戦に目を奪われることになる。

【柳原棋匠について】

人当たりがよく、茶目っ気があるおじいちゃん棋士。それがみんなが抱く、柳原棋匠の印象だろう。

実際、棋匠戦の会場では、そんな彼の人柄に惹かれた記者関係者によって、アットホームな空気ができ上がっていた。

タイトル間中は、風呂へ行っても、サロンに行っても、

食事をとっていても、常に柳原棋匠御一行の和気あいあいとした話し声が聞こえてくる。

棋匠戦の挑戦者である島田八段は、まず、このアウェー感と戦わなければならなかった。

66歳にして現役A級。タイトル通算14期。島田八段はそんな柳原棋匠をもののけのたぐいだ、と言った。しかも特大のな、と。

しかし、当の柳原棋匠は明るい表情とは裏腹に、プレッシャーを感じ、対局前夜うなされていた。

柳原さんスゲーな。化け物だよ。もう66だぜ。いったいいつまでふんばる気だろう。

そんな風に周りに囁かれるようになって、どれくらい経つだろう。

一緒に戦ってきた仲間も、いつしか一人消え、二人消え。

後に残ったのは、仲間たちから受け取った重い期待だけだった。

それが呪いのようだと感じることがある。分かっている。

託した側に、そんな悪意はない。

分かっていても、たくさんの期待で身動きがとれなくなる夜がある。それだけのことだ。

【対局の行方】

対局が始まってすぐ、柳原棋匠が打った手に、その場にいる全員が目を丸くした。

角交換をしない島田八段に対して、端にある歩を二手進めたのだ。

二手損をしてでも角交換をしたいのだろうか。

まるで、漫画のようだ。今までに見たことのない形に、解説が熱くなる。

序盤なんてどうでもいい。力戦に持ち込めば自分の方が上だ。

という自信があるのだろうか。と、二階堂は唸る。

零は、いや違う、と将棋盤を見つめる。

柳原棋匠は、迷うことなく歩を進めて、角と飛車を交換した。なにか策があるのだろうと。

それからは粘り合いだった。己の研究成果をぶつける柳原棋匠と、それに強固に抗う島田八段。

対局は終盤にさしかかり、その間、形勢の天秤は絶え間なく揺れ続けた。

そして夕刻、ついに島田八段が大きく優勢に傾く一手を指す。柳原棋匠の手が一瞬止まった。解説室もざわつく。

しかし、柳原棋匠は、慌てない。落ち着いて、次の一手を指す。

先まで読んだ、力強い一手だった。島田八段は迷いながら、それでも確実に対抗できる手を打ってくる。

けやきの木のようだ。柳原棋匠は島田八段を見て、そう思った。

地味に、地道に、コツコツと自分で積み上げてぶ厚くなっていく。

ゆっくりとしか大きくなれないかわりに、雨風に耐え、堅くて大きな木に育つ。

だとしたら、自分はなんだろう。分からない。

だんだんと、集中力が途切れていくのが分かった。いけないと思いながらも、

腰が痛いとか、目がかすむとか、余計なことを考えてしまう。もしかして、俺は負けるのだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。瞬間、重くのしかかっていたプレッシャーがなくなり、肩が軽くなっていくのを感じた。

柳原棋匠だけではない。周りにいた誰もが、敗北を確信していた。

あと一勝だったのに。朔ちゃんよく頑張ったよ。よくぞここまで。そう涙ぐむ関係者たち。

しかし、柳原棋匠はすんでのところで思いとどまった。

駄目だ。よく分からないが、このプレッシャーは絶対に手放してはいけないものだ。俺が担いで届けるものだ。

集中力を取り戻し、玉を上げる。周囲の人間は、またも目を丸くする。

かなり無理のある一手だった。そんな手ありか、と声が上がる、だが、確かに、その無理な手に付け入る手段がない。

若々しすぎるだろ。島田八段は苦笑いするしかなかった。

それからは泥仕合が続いた。零と二階堂は目を離すことができなかった。

自分もこんな将棋を指してみたい。そう思わずにはいられないような、大激戦だった。

対局は真夜中まで続き、169手、島田八段の振り絞るような「負けました」で幕が下りた。